これからはすべてよくなる / へんげ

ジャケ買い」という行為は映画を観る場合においても例外ではなく、琴線に触れる宣伝ポスター、DVDジャケットを見ただけでその映画を観たくなることはよくある。

で、今回も左の『へんげ』のイメージが目に入っただけで観に行くことを決めた。"異形な者への愛"がはっきりと刻まれたそのイメージは、それだけで僕の心を掴む力があった。とは言うものの、予告編も観ていなければ、自主制作映画に対して深い造詣があるわけでもない、おまけに監督の大畑創さんが関わった過去作さえ観ていない。そんな体たらくなので「面白かったら儲けもん」ぐらいの、かなり軽い気持ちで観に行った次第である。しかし、度肝を抜かれた。

完全な怪物、"異形な者"になってしまった夫(相澤一成)に恐怖し拒絶していた妻(森田亜紀)が全てを受け入れ深く抱きしめる場面は、温かくも血まみれの夫婦愛に恍惚とし、感情を揺さぶられる素晴らしいシークエンスであった。僕自身、涙をながしつつも、「これで元はとれたな」とゲスな考えが頭に浮かんでいた・・・が、そこを落とし所としないところがこの映画を最もこの映画たらしめている理由である。

かつて、三木聡監督が自身の作品において「"リアリスティックなものからある種のファンタジーに、完全にジャンプする瞬間”がある」と語った。このリアリスティックとは映画の中での現実・常識・ルールと読んでも間違いではないだろう。まぎれもなく『へんげ』には、それを大きく"ジャンプする瞬間"がある。その瞬間こそ文字通り「へんげ」であり、森田亜紀の「いけぇ!」という絶叫と共に、全てを破壊する愛が炸裂する瞬間でもある。僕が感じた陳腐な感動すら粉々に破壊していくスクリーンを目の当たりにし、『ファイト・クラブ』の「これからはすべてよくなる」時に感じたものと非常によく似た安堵感に包まれながら劇場を後にした。



■参考文献
傷んだ物体/Damaged Goods: へんげ/ここに来るわ!