疑心暗鬼な必殺仕事人 / アクシデント

ジョニー・トー製作。『ドッグ・バイト・ドッグ』などで知られるソイ・チェン監督作。偶然起こった事故に見せかけて暗殺をする4人組、その中の仲間が死んでリーダーがあたふたします。事故に見せかけて殺す、プロフェッショナルな暗殺者の映画だと最近はジェイソン・ステイサムが無骨に演じた『メカニック』が頭に浮かびましたが、あのジェイソン・ステイサムほど完璧な仕事ぶりかというと言葉につまります。メンバーは…

ブレイン(ルイス・クー) グループのリーダー。妻の死がトラウマ。
ふとっちょ(ラム・シュー) よく食べる。
おんな(ミシェル・イエ) リーダーからの信頼ナシ。
オヤジ(フォン・ツイファン) 痴呆の傾向アリ。

こんな奴らで大丈夫なのか!?と言いたくなりますが、長年この4人で仕事をしています。
タイトルの直後から彼らの仕事が始まり、それぞれの役割をほぼ完璧にこなします。おそらくは隅々まで計算し尽くした行動により、メンバーの最初の接触からターゲットが死ぬまで流れるように作戦を遂行します。ただ、ボケ気味のオヤジが吸殻を安易にポイ捨てし、殺しの形跡を残してしまうあたりから、このチームの仕事が不安になってきます。その吸殻はリーダー兼常時作戦監視役のブレインさんがしっかり拾ってくれるんですが…。

次の仕事は保険金目当ての父親殺しを請け負います。気候に左右される作戦のため、条件が整うまで中止に中止を重ね、ブレインさんがここだ!と思った日にとうとう実行に移します。…移すんですが、またまたオヤジが監視カメラを塞いでいないという致命的なミスを犯すんですね。ブレインさんは「大雨だから見えないよ!大丈夫!」とメンバーになかば強引なゴーサインを出し、我々観客はさらにこのチームへの不信感が増します。作戦は成功し、"偶然"起こった事故に装って標的を殺すことに成功するんですが、メンバーの一人も"偶然"突っ込んできたバスに轢き殺されてしまいます。過去に妻を同業者に殺された事があるブレインさんは、絶対に事故じゃないと疑心暗鬼になります。家に戻ると空き巣に入られており、"偶然"の事故ではなく完全に殺られた!と確信するんですね。先程の仕事の依頼者を担当している保険会社のフォン(リッチー・レン)に的を絞り、自分たちを狙っている黒幕を見つけるために調査を始めます。

盗聴器をフォンの部屋に仕掛け、終始ヘッドフォンで聞き耳を立てるブレインさんなんですが、なんせ四六時中盗聴しているんで、どうでもいいような情報も流れこんでくるわけです。しまいにはフォンが彼女を部屋に連れこんでセックスし始めるんですが、そんな時もブレインさんは真面目に盗聴するんですね。喘ぎ声をヘッドフォン越しに聞きながら、クールで感情をなかなか表に出さないブレインさんが殺された自分の妻のことを思い出して涙を流すシーンは、「ブレインさん、あんた変態やでえ…」と思いながらも込み上げてくるものがあります。

"偶然"が"必然"としか思えない要素がいくつも加わり、ブレインさんはどんどん追い込まれ、最後にはある人の暗殺を行うことを決意します。その暗殺の最中にこれまた"偶然"、日食が起こるんですが…その時、ブレインさんは事の真相をすべて理解します。このラストのオチが僕にとって意外すぎて本当にブッたまげました。ジョニー・トーが製作に名を連ねているため、『ザ・ミッション 非情の掟』や『エグザイル / 絆』のような、スタイリッシュな銃撃戦や仲間同士の渋い友情を期待して観るとちょっとガッカリするかもしれません。しかし、地味ではありますが疑心暗鬼に陥った一人の人間が墜ちていく暗黒ノワールとしてはなかなかの佳作だと思いました。



■参考文献
映画感想「アクシデント」 - くらのすけの映画日記
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評 : アクシデント
アクシデント: LOVE Cinemas 調布