いつか( )の中を教えてくれ / 桐島、部活やめるってよ

長野ロキシーにて。原作は未読です。県選抜にも選ばれるバレー部のエース、桐島が部活をやめた事によって学校内の人間関係が変化していく。編集・構成が素晴らしい!約100分の上映時間がとても濃密に感じました。各パートに分断されることによって物語に推進力を与えています。前半では各パートの最後にまったく分からない、理解できない出来事が起き、次のパートでその出来事の全貌が分かるという構成になっており、疑問発生!→即解決!の繰り返しによって非常に引き込まれました。後半では登場人物それぞれの物語が屋上へと一気に収束する展開に燃えました。神木くん演じる映画部の前田をはじめとする学校内の上下左右様々なヒエラルキーに属している登場人物のどこか同じ匂いのする断片に感情移入し、観終わった後に自分が過ごしてきた学校生活と照らしあわせて「俺は・・・」「私は・・・」と誰かに語りたくなる作品です。おすすめです。

※以下、ラストに関してネタバレ含みます










洋泉社映画秘宝EX 映画の必修科目01 仰天カルト・ムービー100』において長谷川町蔵さんがこのような言葉を用いて『ゴーストワールド』を評論していました。

人間にとっての幸福は、エゴと才能とのバランスから成り立っている。成功者にエゴが強い人間が多いのは、「自分は特別」との思い込みが、得意分野で才能を発揮する原動力になっているからだ。

いっしょに野球部で過ごしてきた宏樹にとって「ない人」と思われるキャプテンのドラフトが終わるまでは続けるというエゴと才能の不釣り合いさに困惑し、映画コンペ一次予選を通過し当然エゴに見合った才能が「ある人」なのでは?と思わせる前田に向けた「女優と結婚したい?」「アカデミー賞狙っちゃう?」との問いに対する予想外の答えによって打ちのめされます。



成功には遠く届かず、才能を持っていない人のただ「好き」というエゴ
傍から見れば幸福へのバランスを壊しているような「好き」というエゴ



エゴと才能のバランス感覚が優れていて、幸福への選択肢をスマートに選んでいる宏樹が感じた衝撃は、僕自身の立ち位置を再確認させてくれました。少ない給料使って映画観て、ゲームやって「アレ、スゲー良かったよ!」とスルーされつつも興奮しながら周りの人に話して、誰に頼まれたわけでもなくブログに書いて・・・。「ロフトプラスワンでイベントにでたい?」「映画秘宝で記事書きたい?」もし宏樹のような人が僕に問いかけるとして、やっぱり「無理」と答えると思います。でも・・・でも・・・好きだから。映画を観るのが好きだから。ゲームをやる事が好きだから。成功や幸福とは正反対のまったく無益な行為だとしても。

パンフでも確認できますが、エンドクレジットで部活に所属している学生は名前に続く( )の中に映画部だったり、バレー部だったりと表記されているのに、宏樹の( )は空白になっています。劇中で四六時中いっしょにつるんでいる帰宅部の竜汰・友弘に( )は付いていません。いつか、いつか宏樹の( )が、宏樹の本当に好きなもので埋まってくれればいいなと思います。



人生の幸福や成功から足を踏み外せ!宏樹!