闇を抱えて真実を求めろ / 『L.A.ノワール』

グランド・セフト・オートシリーズ、ブリー、レッド・デッド・リデンプションなど、数々の名作を産み出してきたROCKSTARGAMESの最新作である。制作スタジオはチーム・ボンディ。制作期間は実に7年を要し、当初予定されていたハードであるPS3の発売よりも前に開発が始まった。新技術のモーションスキャンによるフェイシャルアニメーションや、過酷な制作期間中に約100人のスタッフがスタジオを離れ、本編のクレジットには含まれなかったすべてのスタッフのクレジットが先日公表され話題になった。

第二次大戦の直後、多くの人々が経済の荒廃と生活の再建に苦しむ中、ロサンゼルスは前例のない成長と繁栄を享受していた。ハリウッドは世界中に対して、アメリカンドリームの輝かしい象徴となったのだ。しかし、きらびやかな世界には暗い現実も付きまとう。薬物取引の急増、純粋な少女を容赦なく食い物にする映画産業、警察や政府のあらゆる所で発生する汚職、そして、戦争の恐怖を振り払おうとする数千の復帰兵が市民生活に適応しようともがいていた。(取扱説明書より引用)

ROCKSTARGAMES最新作...そのキャッチコピーだけで心踊るものがあるが、今回の『L.A.ノワール』はこれまでのROCKSTARGAMESの作品とは一線を画している。まず、これまでの作品中、物語を彩ってきたのは犯罪者、不良少年、アウトローなど、時には法を破ってでも行動する反社会的な主人公達だった。しかし、今回はうってかわって法の番人、善良な警察官であるということ。そして、アクション的な自由度が大きく削られた、あくまでも推理アドベンチャーであるということ。この2点が非常に大きな違いだと言える。なので、街中で車盗み放題!銃乱射!ブッ殺し最高!!なゲームプレイはできない。時にはド派手なカーチェイスや銃撃戦が繰り広げられるが、あくまでも、地道な調査から証拠を見つけ、関係者を尋問し、事件の黒幕に辿り着き逮捕する...事件は基本的にこのように解決される。

なんだか味気ないゲームだなぁと思うなかれ、先程アクション的な自由度は大きく削られたと言ったが、それを補って余りあるほどにストーリー的な自由度は半端じゃないことになっている。一言で表すならば、「オレが物語を動かしている!」という感覚だ。それ故に物語への没入感は大変素晴らしい。物語への没入感という観点で見ると、『ヘビーレイン』が近年の作品の中では抜きん出ていたが、それに勝るとも劣らない出来だと思っている。僕自身、ゲームプレイ初期のボンクラ捜査官では、証拠もさほど見つけられず、尋問も失敗続き、最悪な時は無実の人を誤認逮捕!なんてこともあった。しかし、それでもストーリーは進む...”あなたの捜査がどのような結果になっても許しますよ〜”というゲームシステムにとても驚いた。しかし、だからこそ完璧な捜査で真犯人を突き止め、事件の真実に辿り付いたときのカタスシスは筆舌に尽くしがたいものがある。

また、『L.A.ノワール』のタイトル通り、真正面からフィルム・ノワールという、ある種のジャンル映画を取り入れた作品であるということは本作品を語る上で避けては通れない。ある程度フィルム・ノワールの知識が無いと楽しめませんよ〜という姿勢が今回は明白だ。ROCKSTARGAMESはこれまでも映画的演出を多分に取り入れ、タイトルや小道具など細かい部分から、登場人物たちの立ち振る舞い、ストーリーの本筋まで随所から映画的演出を感じられる作品作りをしてきた。本作では、『L.A.コンフィデンシャル』から引用が多く見られることは様々なところで語られているし、ブラック・ダリア事件なんてそのまんま登場する。そして、クライマックスは『第三の男』のあるシークエンスを引用したのではないかと僕は思っている。また、映画自体は未見で申し訳ないのだけれど、DLCの『裸の町』、『REEFER MADNESS』は過去の映画のタイトルからの引用である。その他にも、ゲームを楽しむために、ROCKSTARGAMES社が推薦映画として7本のフィルム・ノワールを紹介しているが、100%クリアをするための条件として50本のフィルム缶集めがあり、そのフィルム缶のタイトルはなんと実在のフィルム・ノワールのタイトルそのものなのだ。「L.A.ノワールを楽しむためには、この50本ぐらい観といてくれないとねぇ〜、...フヒヒ!」という会話がROCKSTARGAMES社内であったかどうかは定かではないが、もはや映画好きが作ったゲームというよりは、映画キチガイが作ったゲームだと思わざるを得ない。フィルム・ノワールに疎い僕でさえ、ある種タランティーノ的なサンプリング映画を彷彿とさせる、サンプリングゲームとして過去の映画作品へのリスペクトをいたるところで感じた。

最後に少しだけ主人公コール・フィルプスについて触れたいと思う。海兵隊のエリートとして、沖縄戦を経験した彼は海軍最高の栄誉である銀星勲章授章者として、除隊後、ロス市警の一員となった。警察官としても順調に出世する彼は、まさに誰もが羨むエリート街道まっしぐらである。だが、物語が進むに連れて、戦時中における彼の本当の姿がフラッシュバックとして挿入される。そこには頭でっかちな指示しかできず、仲間から疎まれ蔑まれ、銀星勲章授章の英雄とは程遠いコール・フィルプスがいた。本当に出世の虫、こんなゲス野郎でプレイしていたとは...と、若干失望しつつ、彼に複雑な感情を抱きながらプレイするようになった。そんな彼が警察官として徐々に出世よりも真実を追い求めていく様は、海兵隊時代の罪滅ぼし的な意識が含まれているのだろうかと思ってプレイしてたが......クライマックスのあるセリフで失望は絶望に変わったとだけ言っておきたい。このように主人公でさえ表もあれば裏もある、真相が明るみになるに連れて様々な人間の本性が暴かれていくのも『L.A.ノワール』の楽しさのひとつだと思う。

ここまで褒めちぎっておいてアレだが、若干の不満があるとすればゲームプレイ中のバディがおまけ程度の存在だったというところか。マフィアに取り囲まれ、背中合わせに「どうするよ相棒...」とかやって欲しかったなと思ったりもした。とはいえ、推理アドベンチャーの金字塔として、後世に語り継がれる傑作であるのは間違いない。これからプレイする方には是非、複雑に入り組んだ人間関係や、当時を再現した素晴らしい町並み、ちょっとした小道具一つ一つまで味わって欲しい。おすすめです。



■参考文献
DIARY OF A MAD GAMER / マスクド刑事の『L.A. NOIRE』密着24時!(前編)
DIARY OF A MAD GAMER / マスクド刑事の『L.A. NOIRE』密着24時!(後編)
トップダラー禍津さんのつぶやき
タフすぎた7年の制作期間。『L.A.ノワール』の開発秘話がIGNに掲載される

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