そして地獄の門は開かれた... / コール オブ デューティ ブラックオプス

 昨年の11月にリリースされ、発売後最初の5日間に世界中で6億5000万ドルを売り上げ、コールオブデューティーシリーズのMW2が記録した『全エンターテイメントの歴史の中で最大のローンチ』をも軽々と越してしまった超ド級のモンスタータイトルである。

 バトルフィールドメダルオブオナー等のいわゆるリアル系FPSに属し、シングルプレイは冷戦時代を舞台に元CIA工作員の回想という形で、歴史に記されなかった超極秘軍事作戦...まさに“Black Ops”にプレイヤーは参加していくことになる。シナリオは『ダークナイト』の原案を担当したデヴィッド・S・ゴイヤーが脚本コンサルタントとして協力しており、サム・ワーシントンエド・ハリスゲイリー・オールドマンなど、ひとクセもふたクセもあるの俳優が主要人物の声を担っている。

 もはや、コールオブデューティーシリーズの御家芸ともなった映画的演出が本作でも多用される。戦闘中、不意に発生するスローモーションやド派手な爆発など、超ハイクオリティなゲームデザインだからこそ成し得る映画的演出でプレイヤーを楽しませてくれる。なんと言っても、ベトナムでの作戦中はアドレナリン全開な最高の気分になること間違いなしだ。ローリングストーンズの『悪魔を憐れむ歌』が流れる中での水上戦やジャングルでのスナイパーとの戦い、ヘリコプターを操縦しての空中戦はシングルプレイ中最もアガるハイライトだと言えるだろう。また、ときにはベトコン共に捕まって無理矢理ロシアンルーレットをやらされるなど、多くの媒体で語られている通り、まさに『地獄の黙示録』ヨロシク!、『ディア・ハンター』ヨロシク!なシーンの目白押しだ。しかし、こういったコールオブデューティーシリーズのサービス過多な映画的演出には業界内外共に批判が高まってきたのも事実である。

 11月に話題作『バトルフィールド3』を発売予定のEAは、以前『バレットストーム』のプロモーションで『DUTY CALLS』というPCゲームを無料配信した。難しげなことを語るだけで全く意味のないナレーションや使いどころに違和感のあるスローモーション、挙句の果てに「俺はパラシュート兵だ。なぜならこれは超リアルな戦争シナリオだからだ。お前に俺は撃てない。なぜならこれはゲームを映画みたいに盛り上げるためのカットシーンだからだ。」と、元も子もない事を語る敵兵が出てきたりと、コールオブデューティーシリーズを究極に皮肉った内容だった。たしかに、映画的演出は作り手のやり方次第ではプレイヤーを萎えさせてしまうこともある。ただの豪華なカットシーンの連続では、プレイ中の興奮を冷めさせるマイナス要素でしかない。本作は成功している方だとは思うが、「映画的興奮」と「ゲーム的興奮」の共存は非常に難しい。後々になって考えると、僕自身、初回のシングルプレイクリア後にもう1周しようという気持ちにはならず、単純に戦闘自体を楽しみたいために、オンラインのマルチプレイで対人相手、惰性でズルズルとプレイを続けるだけであった。あるゲームモードの存在に気がつくまでは...。

 遅ればせながらそのゲームモードにハマった瞬間、まさに地獄の門はついに開かれた!」と感じた。そのゲームモードとはズバリ、ゾンビモードである!ゾンビモードとは劇場や難破船、はたまたペンタゴンなどを舞台に、群がるゾンビどもを蹴散らし、なんとしてでも生き残ることが目的のゲームモードだ。しかも、「ゾンビだからいいんじゃね?」という浅はかな理由なのかどうかは分からないが、このモードには日本版にもゴア描写の規制が一切なく、シングルプレイの規制に怒り狂ったジャパニーズマッドゲーマーも満足するまでゾンビの四肢を破壊することが可能だ。また、リアル系FPSな本編と打って変わって、ギミックに溢れたステージや個性あふれるプレイヤーキャラ(ダウンロードコンテンツなしの場合、ジョン・F・ケネディカストロ議長など歴史上の人物もしくはキチガイが使用可能)、『マーズ・アタック!』で火星人が乱射しているレイガンそっくりな銃が出てくるなど開発元トライアークの遊び心満載というか詰め込み過ぎな内容になっている。元々、コールオブデューティーシリーズに初めてゾンビモードが搭載されたのは本作のトライアークが開発を担当した『ワールド・アット・ウォー』であり、本作ではその経験が十二分に発揮され、より洗練されたゲームデザインでゾンビモード初心者から上級者まで、飽きること無く遊び倒すことができる。

 ラウンドを重ねるごと、無限に増え続けるゾンビたちに知恵と度胸で立ち向かわなければならないこのモードはマップによって戦い方や難易度がまったく違うことも特徴だ。ダウンロードコンテンツダニー・トレホやロバート・イングランドがプレイヤーキャラとして使用可能かつ、“God of all Zombies"ジョージ・A・ロメロ御大と戦える、映画ファンには夢のような『Call of the Dead』も捨てがたいが、数あるマップの中でも特に僕がオススメしたいのは初期マップ『Kino der Toten』だ。ハーケンクロイツの垂れ幕ぶら下がる劇場でナチゾンビどもを景気よく殺しまくれるこのマップは、完全にある映画をコンセプトに作られてるとしか思えない。その映画とはタランティーノ印の戦争くっちゃべり映画『イングロリアス・バスターズ』である。

 この『Kino der Toten』では、劇場内の電源を入れることで映写室に入ることが可能になる。そこからナチゾンビどもを見下ろしMP-40を乱れ撃ちする姿はまさしく『イングロリアス・バスターズ』クライマックスのイーライ・ロス演じる"ユダヤの熊"だ!さらにブラット・ピット演じるクレイジーなアルド中尉の愛刀クリソツなボウイナイフで戦うこともできる!さすがに、ナチゾンビ一人一人の額にハーケンクロイツを刻む事はできないが、頭の皮だけなんてもったいないことを言わずに、首根っこから刈り取る事が可能!まさにプレイヤーの誰もが地獄のバスターズになることができるのだ。

 たった1本のゲームでバスターズとなって戦える日を誰が想像しただろうか?ゾンビとなったジョージ・A・ロメロと戦える日を誰が想像しただろうか?映画体験以上のゲーム体験をプレイヤーに与えてくれる今作のゾンビモードは、コールオブデューティーが映画的であることへの批判に対する作り手たちからのアンサーである。まだ本作を未プレイの方はもちろんのこと、シングルプレイで飽きてしまったプレイヤーや殺伐としたマルチプレイに嫌気が刺したプレイヤーにも、このゾンビモードをプレイしないなんてもったいないぜ!と声を大にして言いたい。おすすめです。



■参考文献
『ブラックオプス』売り上げ記録:『MW2』、その他の本、ゲーム、映画を超える : Kotaku JAPAN
「Call of Duty」シリーズのブラック過ぎるパロディFPSゲーム「Duty Calls」 - DNA
Call of Duty:Black Ops @ wiki
コール オブ デューティ ブラックオプス - メモリの藻屑 、記憶領域のゴミ

マーズ・アタック! [DVD]

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闇を抱えて真実を求めろ / 『L.A.ノワール』

グランド・セフト・オートシリーズ、ブリー、レッド・デッド・リデンプションなど、数々の名作を産み出してきたROCKSTARGAMESの最新作である。制作スタジオはチーム・ボンディ。制作期間は実に7年を要し、当初予定されていたハードであるPS3の発売よりも前に開発が始まった。新技術のモーションスキャンによるフェイシャルアニメーションや、過酷な制作期間中に約100人のスタッフがスタジオを離れ、本編のクレジットには含まれなかったすべてのスタッフのクレジットが先日公表され話題になった。

第二次大戦の直後、多くの人々が経済の荒廃と生活の再建に苦しむ中、ロサンゼルスは前例のない成長と繁栄を享受していた。ハリウッドは世界中に対して、アメリカンドリームの輝かしい象徴となったのだ。しかし、きらびやかな世界には暗い現実も付きまとう。薬物取引の急増、純粋な少女を容赦なく食い物にする映画産業、警察や政府のあらゆる所で発生する汚職、そして、戦争の恐怖を振り払おうとする数千の復帰兵が市民生活に適応しようともがいていた。(取扱説明書より引用)

ROCKSTARGAMES最新作...そのキャッチコピーだけで心踊るものがあるが、今回の『L.A.ノワール』はこれまでのROCKSTARGAMESの作品とは一線を画している。まず、これまでの作品中、物語を彩ってきたのは犯罪者、不良少年、アウトローなど、時には法を破ってでも行動する反社会的な主人公達だった。しかし、今回はうってかわって法の番人、善良な警察官であるということ。そして、アクション的な自由度が大きく削られた、あくまでも推理アドベンチャーであるということ。この2点が非常に大きな違いだと言える。なので、街中で車盗み放題!銃乱射!ブッ殺し最高!!なゲームプレイはできない。時にはド派手なカーチェイスや銃撃戦が繰り広げられるが、あくまでも、地道な調査から証拠を見つけ、関係者を尋問し、事件の黒幕に辿り着き逮捕する...事件は基本的にこのように解決される。

なんだか味気ないゲームだなぁと思うなかれ、先程アクション的な自由度は大きく削られたと言ったが、それを補って余りあるほどにストーリー的な自由度は半端じゃないことになっている。一言で表すならば、「オレが物語を動かしている!」という感覚だ。それ故に物語への没入感は大変素晴らしい。物語への没入感という観点で見ると、『ヘビーレイン』が近年の作品の中では抜きん出ていたが、それに勝るとも劣らない出来だと思っている。僕自身、ゲームプレイ初期のボンクラ捜査官では、証拠もさほど見つけられず、尋問も失敗続き、最悪な時は無実の人を誤認逮捕!なんてこともあった。しかし、それでもストーリーは進む...”あなたの捜査がどのような結果になっても許しますよ〜”というゲームシステムにとても驚いた。しかし、だからこそ完璧な捜査で真犯人を突き止め、事件の真実に辿り付いたときのカタスシスは筆舌に尽くしがたいものがある。

また、『L.A.ノワール』のタイトル通り、真正面からフィルム・ノワールという、ある種のジャンル映画を取り入れた作品であるということは本作品を語る上で避けては通れない。ある程度フィルム・ノワールの知識が無いと楽しめませんよ〜という姿勢が今回は明白だ。ROCKSTARGAMESはこれまでも映画的演出を多分に取り入れ、タイトルや小道具など細かい部分から、登場人物たちの立ち振る舞い、ストーリーの本筋まで随所から映画的演出を感じられる作品作りをしてきた。本作では、『L.A.コンフィデンシャル』から引用が多く見られることは様々なところで語られているし、ブラック・ダリア事件なんてそのまんま登場する。そして、クライマックスは『第三の男』のあるシークエンスを引用したのではないかと僕は思っている。また、映画自体は未見で申し訳ないのだけれど、DLCの『裸の町』、『REEFER MADNESS』は過去の映画のタイトルからの引用である。その他にも、ゲームを楽しむために、ROCKSTARGAMES社が推薦映画として7本のフィルム・ノワールを紹介しているが、100%クリアをするための条件として50本のフィルム缶集めがあり、そのフィルム缶のタイトルはなんと実在のフィルム・ノワールのタイトルそのものなのだ。「L.A.ノワールを楽しむためには、この50本ぐらい観といてくれないとねぇ〜、...フヒヒ!」という会話がROCKSTARGAMES社内であったかどうかは定かではないが、もはや映画好きが作ったゲームというよりは、映画キチガイが作ったゲームだと思わざるを得ない。フィルム・ノワールに疎い僕でさえ、ある種タランティーノ的なサンプリング映画を彷彿とさせる、サンプリングゲームとして過去の映画作品へのリスペクトをいたるところで感じた。

最後に少しだけ主人公コール・フィルプスについて触れたいと思う。海兵隊のエリートとして、沖縄戦を経験した彼は海軍最高の栄誉である銀星勲章授章者として、除隊後、ロス市警の一員となった。警察官としても順調に出世する彼は、まさに誰もが羨むエリート街道まっしぐらである。だが、物語が進むに連れて、戦時中における彼の本当の姿がフラッシュバックとして挿入される。そこには頭でっかちな指示しかできず、仲間から疎まれ蔑まれ、銀星勲章授章の英雄とは程遠いコール・フィルプスがいた。本当に出世の虫、こんなゲス野郎でプレイしていたとは...と、若干失望しつつ、彼に複雑な感情を抱きながらプレイするようになった。そんな彼が警察官として徐々に出世よりも真実を追い求めていく様は、海兵隊時代の罪滅ぼし的な意識が含まれているのだろうかと思ってプレイしてたが......クライマックスのあるセリフで失望は絶望に変わったとだけ言っておきたい。このように主人公でさえ表もあれば裏もある、真相が明るみになるに連れて様々な人間の本性が暴かれていくのも『L.A.ノワール』の楽しさのひとつだと思う。

ここまで褒めちぎっておいてアレだが、若干の不満があるとすればゲームプレイ中のバディがおまけ程度の存在だったというところか。マフィアに取り囲まれ、背中合わせに「どうするよ相棒...」とかやって欲しかったなと思ったりもした。とはいえ、推理アドベンチャーの金字塔として、後世に語り継がれる傑作であるのは間違いない。これからプレイする方には是非、複雑に入り組んだ人間関係や、当時を再現した素晴らしい町並み、ちょっとした小道具一つ一つまで味わって欲しい。おすすめです。



■参考文献
DIARY OF A MAD GAMER / マスクド刑事の『L.A. NOIRE』密着24時!(前編)
DIARY OF A MAD GAMER / マスクド刑事の『L.A. NOIRE』密着24時!(後編)
トップダラー禍津さんのつぶやき
タフすぎた7年の制作期間。『L.A.ノワール』の開発秘話がIGNに掲載される

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